谷祐子のドイツ取材記

からだふぁん

2010年取材記事

1.)多種化学物質過敏症(MCS)は

通常使用される化学物質の極微量で毒性生体反応を引き起こす病気のことで、ドイツ、ヴォルフハーゲンのルノー先生は天然キレート材であるグルタチオン、ミネラル、ビタミンによる解毒治療を積極的に行っている医師です。

2.)今回その治療の実際についてお話を伺う機会を得ましたので報告させていただきます。

3.)ドイツのほぼ中央に位置するカッセルは

ドイツ・メルヘン街道の主要都市でもあり、グリム兄弟のゆかりの地としても知られています。そのカッセルから車で30分ほどのヴォルフハーゲンという小さな町に環境病院研究所を開設するルノー医師を訪ねました。

ドイツのIFU環境病研究所

 

4.)ヴォルフハーゲンの市庁舎の前で、先生と打ち合わせをして市長を訪ねました。

「ここではルノー博士と協力して環境を医師を融合させた町づくりを目指しています。」

5.化学物質過敏症の患者にとって大切なこと、それは

  1. デトックス(身体から有害物質を出すこと)
  2. 栄養(足りないものについて適切なサプリメントの処方を追加する)
  3. 身体的、精神的ストレスを取り除く

ことでこれがルノー先生の治療戦略の3本柱です。

6.)ここヴォルフハーゲンでは州、ドイツ国のみならず、EUからも経済的に援助を受けて古い伝統ある建物を利用したエコホテルの建設がすすめられています。

7.)エコホテル建設地の中央に位置する大きな菩提樹はNaturdenkmal(自然の象徴)と呼ばれ、この木の下にテーブルを出してカフェを楽しむ空間になっています。またエコホテルはそこに滞在する人のストレスを軽減しリラックスするためのさまざまな工夫が考えられています。

たとえば、床にカーペットを敷きつめるとその接着剤が化学物質過敏の原因ともなりうるため、カーペットを除去し石の床にするとか食物アレルギーをもつ人を考慮した一つ星レストランにエコホテルに理解のあるシェフを招くとか。

8.)古い建物を利用したエコホテルの向いには

アパートメント方式の新しい滞在型ホテルの建設が予定されています。キッチンがあり自炊可能な部屋でウェルネスプールが併設される予定です。ここではもともとあった古い城壁の石をひとつずつ点検してそれを再度利用することで新しい建物ながら、となりのエコホテルとの外観の調和をはかる工夫も考慮されています。

9.)ルノー先生の環境病研究所はヴォルフハーゲンの町の中心からわずか歩いて5分程度のところにありました。ここでは実際にさまざまなアレルゲン、化学物質過敏症、慢性疲労症候群などに対するDetoxification(解毒、デトックス)による臨床治療が行われています。講義をしていただきました。

10.)まずは科学的根拠を検索するために

例えば毛髪による診断が行われます。内装や家具などの施工用接着剤に含まれるキシレンという化学物質に長期間暴露されて身体が過敏症状を起こしてくると毛髪内の2-Metylhippurate(2-メチル馬尿酸)が高値を示し、Glycine sulfate(グリシン硫酸塩)が低値を示してくるなど様々な臨床的に意味がある診断ができるようになってきています。

11.)主な医学的診断としてMetyhlmalonate(メチルマロン酸)はビタミンB12のマーカー、Formiminaoglutamate(ホルムイミノグルタミン酸)は葉酸のマーカー、P-hydoroxyphenyllactate(パラヒドロキシフェニル乳酸塩)は発ガン物質のマーカーなどが有効で得あることをご紹介しておきます。

12.)ルノー先生が積極的に解毒治療として使われているのはグルタチオンです。

このコンセプトはもちろん鉛や水銀などの地金属などのキレーションということにあるのですが細胞のミトコンドリアレベルつまり遺伝子レベルでのデトックスを行うところにあります。

13.)グルタチオンにより貴金属などの有害物質の解毒を行うことによりビタミンB12の機能が回復し、その結果として神経細胞が活性化、適切な遺伝子修復が行われるというわけです。

14.)グルタチオン治療は化学物質過敏症の患者さんだけでなくパーキンソン病やうつ病の治療にも応用しているそうです。グルタチオン治療後にいったいどんな変化が起こるでしょうか。彼はビデオでそれをみせてくれました。

15.)グルタチオン治療の直後、パーチンソン病の患者さんは、症状としてみられる固縮(他動的に動かそうとしたときの持続した筋緊張)が改善し、動作、会話がスムーズになるだけでなく、抑うつ傾向が改善し、また振戦も軽減していました。また、このグルタチオンによる解毒治療は化学物質過敏症や慢性疲労症候群だけでなく他の炎症性疾患、うつ病の方なども応用されていました。研究所の中にはショウガがそのままおかれていてショウガ紅茶などを楽しむこともできます。

16.)またルノー先生が3本柱の2つ目にあげている

栄養の補助的治療としてサプリメントも積極的に使用されています。例えばビタミンD3は骨粗鬆症の治療として骨をつくる作用のみならず、ビタミンCと相互して脳機能保護にも作用します。また魚油に含まれる細胞膜の要素でもあるオメガ3系脂肪酸(Omega3)や緑茶に含まれる催眠機能を司るメラトニンなども有効なサプリメントとして処方されていました。

17.)3つめの柱となるアンチストレス、つまりストレス、原因物質をなるべく取り除いた生活を提供する環境作りがすすめられていました。町の中心から車で10分ほど離れた森の中は“kein Netz“、つまり“電波の届かない場所“になっています。もちろん携帯電話も通じません。

18.)緑豊かな有機的な環境の中でゆっくり散歩を楽しみ、時には腰かけて読書をする、よい空気に含まれた質の高いエネルギーを充電するための自然環境が整っていました。本当に気持ちの良い場所でした。現代のめまぐるしい社会生活が人間にストレスを与え、ひいては時に精神的、身体的問題を引き起こします。それをどのようにして回避していくか、その自然環境作りにもいくつかのヒントがあるように思えました。

19.)ヴォルフハーゲンのルノー医師を訪ねてみて、あらためて化学物質過敏症という診断、治療のきわめて難しい疾患に取り組むには、デトックス治療のみならず人間性を重視したストレスから解放されるための環境づくりと個々の症状に合わせたサプリメント処方を加え、多方面からのアプローチが必要であるということを感じました。

ドイツのIFU環境病研究所

2010年取材記事